分譲大規模マンションが「終の棲家」に適さないと思う理由!

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大規模マンション

現在、三井不動産レジデンシャルが販売。三井住友建設が施工をした、神奈川県都筑区の大規模マンションの問題(杭の計画・施工不良によるマンションの傾き発生)が社会的なニュースとなっています。何か、特別な出来事が起こっていると感じるかと思いますが、実は、規模の差こそあれ、このような、トラブルは、過去にも一定割合で発生しているものなのです。

私は一級建築士として25年以上活動してきておりますが、「大規模な施工不良トラブル」が時折ニュースとして、情報拡散されることがあります。大半は、ニュースなどで大々的に報じられることなく、トラブル対応が進められているのが現状です。

「マンションの施工不良・トラブル」に関する話をし始めると、切りがありませんので、今回は私見(自論)となりますが、『大規模マンションは、終の棲家には、適していない』という考え方に関して、少々話をしてみたいと思います。

 

分譲大規模マンションが「終の棲家」に適していないと考える3つの理由!

 

私は、一級建築士として「住宅はどのようにあるべきか」といった、ひとつの基準・価値観を有しています。そんなひとつの要素として、「終の棲家とするのであれば、分譲大規模マンション・タワーマンションは適していない」と考えています。尚、タワーマンションが終の棲家に適していない理由に関しては、こちらの記事(高層マンションは永住の住処には不向き?!年々高まる「火災リスク」)もご参照いただければと思います。

細かく考えると、いろいろな理由を記することができるのですが、私が分譲大規模マンション(タワーマンションも含む)が終の棲家には適さないと考えている3つの理由を下記に記してみたいと思います。

 

1)分譲マンションの大半は「共有物」であるということ。修繕・建て替えなどは、全居住者の4/5以上の賛同が必要となるのです。

基本的に「マンション(集合住宅)」という住宅形態は、『賃貸住宅(賃貸システム)』に向いているものであって、『分譲住宅(分譲システム)』には、適していない住宅と思っています。マンションを購入するということは、住戸が自分の所有物となるわけですが・・忘れてはいけないのが、「建物躯体」「土地」「植栽や駐車場・駐輪場など」大半の要素が共有物となるということなんですね。

「住戸が自分の所有物」となるといっても、実際には「住戸内の仕上げ(床、壁、天井)」を所有しているだけに過ぎないのです。その上で権利として、「住戸内を自由に利用できる」という要素があるだけのこと。それ以外の要素は、すべて共有物(共用)なのです。

それが何を意味しているのかと言うと、「住戸内の仕上げ」「住戸内の利用方法」以外は、すべて自分勝手に利用・変更・修繕などを行うことは出来ない ということなのです。分譲マンションを購入する方のいったい何パーセントが、このことをしっかり認識していますでしょうか・・。なんとなく「共有物」があることは理解していても、その本質を本当の意味で認識・覚悟をもって購入されているのか・・これが大きな問題を生み出す要素となるのです。

今回の都筑区の大規模マンションでは、この課題が大きくクローズアップされつつあるのです。

分譲マンションは、個人の意見で「修繕」「建て替え」などを行うことは出来ないんですね。特に問題となるのは、今回のように基礎や躯体に重大な欠陥・施工不良が存在していた場合、根本的な対策としては「建て替え」が必要となります。

しかし、ネックとなるのが、このようなケースで建て替えをするためには、「マンション全世帯数の4/5以上の賛同が必要となる」んですね。これは、正直ものすごく大きなハードルとなる要素なのです。マンション規模が、「12世帯」程度であれば、お互いに意見交換をしたり、すり合わせをしたりすることも可能です。

でも、大規模マンションともなると、200世帯・500世帯・700世帯などとんでもなく、多くの世帯数が存在することになります。まず間違いなく、すべての居住者同士での意見交換や調整などは、出来ないもの。きちんと面と向かってお互いが意見交換出来ない状況では、「4/5以上の賛同」を得ることなど、ほとんど不可能といっても良いくらいなのです。

これは、世帯数が多くなればなるほど、意見調整は困難なものとなるわけです。

このような状況は、津波や大規模地震などの自然災害が発生した場合にも、大きな問題としてクローズアップされます。阪神大震災に遭遇した、大規模マンションの中には、本当は建て替え・修繕をしなければいけないのに、いまだに修繕・建て替えが出来ないまま、放置されているようなマンションも存在しているのです。

都筑区の大規模マンショントラブルのケースでは、基本的に販売主側が補償も含めてすべての費用負担(建て替えなど)を行う方向で調整しているようですが、それでも調整は難航することが想定されています。費用負担の必要が無いケースですら、調整はかなり難しいものとなるのですから、各住民がそれぞれ費用負担をしなければいけない、災害による建物損傷や老朽化トラブルに関しては、世帯数が多くなるほど、まず調整がつかないことは、十二分に想像していただけるものかと思います。

これが、分譲大規模マンションが終の棲家にはそぐわない、最大の理由となります。

 

 

2)大規模分譲マンション・タワーマンションになるほど、住戸所有者が多様化。

これは、前項「1」と関連した話となります。大規模マンションとなるほど、住民合意得にくくなるという話をしましたが、その要因のひとつが、「住戸所有者の多様化」という要素です。

大規模マンション(タワーマンション)となるほど、住戸を購入する人々の属性が多様化するんですね。特に、経済的な状況が大きく異なり、老後の生活のためにと、住戸を購入、その後は年金生活という方もいれば、30代で、ギリギリの生活費の中で住戸を購入した人もいますし、逆に経済的に余裕があって、大規模マンションを購入した人もいるわけです。

さらに、今後問題となるのではないかと思うのが、海外居住者が投資目的で住戸を購入しているケース。そこに住んでいる人は、住戸所有者ではないというパターンです。このような住戸所有者割合が増えると、先に記したように、何かトラブルが生じたときに、住民同士の合意形成がしにくくなることが考えられます。所有者が外国暮らしの外国人という状況も増えているからなんですね。

このように、生活スタイルや価値観、経済状況が大きく異なると、マンションの修繕や建て替えに関して、同じ方向性で結論を見出すことがとても困難なものとなりやすいのです。経済的に余裕がある世帯であれば、建て替え・修繕に費用負担するくらいであれば、別の新しいマンションを購入したほうが良いと考えるケースも多くなりますからね。

逆に経済的な余裕が無い世帯であれば、「修繕の必要性」は感じたとしても、修繕費用の負担が出来ないため、修繕に同意することが出来ないという状況が生まれるからなんですね。住民の生活スタイルが多様化するほど、合意形成は、難しいものとなるのです。

 

 

3)マンション規模が大きくなるほど、躯体修繕が困難となる。

都筑区のマンションでは、「基礎(杭)の施工不良」が大きな問題となっています。このような状況において、これが戸建住宅であったら、建て替えではなく、基礎(杭)の改修を選択することとなるかと思うんですよね。小規模なマンションの場合でも、基礎の改修で対応することが最善策となるケースもあるかと思います。

しかし、今回のように大規模なマンションともなると、躯体の施工不良(特に基礎関連施工不良)に対して、修繕では対処不能という状況が生まれやすいのです。戸建住宅であれば、傾いた住宅をジャッキアップして、傾きを是正してから、基礎の補強をする・・ということが可能ですが、大規模マンションともなると、傾きを是正することなど、簡単にできるものではありません。

大規模マンション・タワーマンションの場合には、「躯体に関する修繕が困難となりやすい」ということ。自分のマンションにはトラブルは起きない・・と神頼みしていても、一定割合で躯体に関する不良を抱えた物件が表面化するものなのです。そういう場合は、「10年以上経過してから、躯体のトラブルが表面化してくる」という傾向もありますしね。

自然災害による建物損傷のリスクは、常に存在していますし。それらをすべて、納得した上でなら、大規模マンションを購入するのもありかと思いますが・・。いかがですか?!



2015年10月20日住宅購入

Posted by baum